大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)2644号 判決

被告人 金四信 外

〔抄 録〕

論旨第一点。

公訴の提起は、それが裁判所に対し或特定の刑事事件について刑罰権の確定を求むるものである以上、裁判所の為すべき審理の対象を明らかにしなければならないと同時に、起訴後被告事件の審理において被告人の防禦に不測の不利益を醸成することなきを保障するため審理の対象の範囲が明確にされていなければならない。刑事訴訟法第二百五十六条が、起訴状記載の要件として公訴事実外一連の事項を掲げ、且つ公訴事実は訴因を明示してこれを記載し、訴因を明示するには、できる限り日時場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないとしているのは、この意味において理解される。従つて、本件起訴状の記載に明らかなように、公訴事実が、盗犯等の防止及処分に関する法律第三条所定の常習累犯窃盗の犯罪事実を内容とするものである以上、起訴状にこれが犯罪の構成要素に属する所論窃盗の罪の三囘に亘る受刑終了の前科を記載したことは理の当然とするところであつて、毫も非議さるべきではない。

所論において、右前科を起訴状に記載するときは、裁判官をして被告人等が窃盗の常習者であつて本件窃盗の所為も当然被告人等において犯したものであるとの予断を生ぜしむる虞があり、斯かる記載は、法の当然禁止するところであるから、本件公訴は棄却さるべきに拘わらず、そのことのなかつた原判決は到底その破棄を免かれないという趣旨の主張をしているけれども、起訴状記載の公訴事実は、刑罰権を確定すべき裁判官の判断の前提として提供された単なる一応の仮設であつて、裁判官は、これが仮設に対する適法な証拠(公判廷に顕出された)なき限り、絶対に、その実体的判断を拘束されるものではない。されば、所論前科の存在を証すべき書類その他の物を起訴状に添附してあるわけでもない本件において、これが前科の事実はこれを推認し得べくもなく、従つて、起訴状に単に所論前科の記載があるだけのことによつて、被告人等が本件窃盗の所為に出でたことを予断すべき何等のよすがもない。所論は採用するに由なく理由がない。

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